オペラ鑑賞は生まれて初めての体験。そもそも、クラシック音楽が苦手ですぐに子守歌になってしまうタイプなのだ。今回は、11月に椙山先生のオペラ講演会で「予習」をしているので「初めてのオペラ鑑賞」という緊張感はなかった。心配なのは睡魔だけ…。
開演前、舞台両袖にエンジの垂れ幕が下がり、舞台上では同色のエンジのギリシャ風?衣装をまとったダンサー多数がくつろいでいる。準備体操もどき動作を繰り返す人や、ダンサー同士の談笑や、ただ寝そべって休息しているとしか思えない人までいて、緊張感のカケラもない。
観客のざわめきと対照をなすピンッと張りつめた空気感が開演前の舞台の雰囲気だと思っている私には気抜けする感じなのだが、おかげでこちらの緊張感もさらになくなった。これも計算された演出なのだろうか。
「今から開演します」というアナウンスがあったような、なかったような感じのまま、勝手に動いていたダンサーがそれらしき配置になって、突然の音楽とともに踊りだした。オペラではなく創作ダンスを観ている感じ。幕間の会話から、それが導入部の小鳥のダンスとわかったが、とても小鳥には思えなかった。古典的オペラとは異質のモダンさがおもしろい。
長いダンスで、いったいどこからオペラになるの? と疑問でいっぱいになった頃、天井を隠す布かと思っていた大きな天幕が動き、天井から吊り下げられている数本のロープ操作一つでいくつものとがった小山のようになり、その間から白いブラウスと黒いズボンといういたって質素なタミーノ(王子)が登場してオペラが始まった。うれしい事に、歌に合わせた字幕が左右に出て、字幕を読みながら歌の美しさだけを感じればよかった。
その後、舞台手前が黄色、奥へいくほど黄土色、緑、青、紺とぼかし模様のように色が変化している大天幕の吊り方一つで、険しい山道、館の大広間の天井、深夜の大空など多様な情景が表現されていく。みごとな演出だった。エンジのダンサーが黒子のように天幕を操作するのも一興。
次に、三人の侍女(魔女?)が王子を助ける場面になるのだが、この侍女の登場によって、やっとオペラらしい華やかな衣装になった。声楽的なことはわからないが、デブ・ヤセ・ノッポという体型的にも特徴がある三人が中世風の個性的な衣装をまとって歌う姿はオペラっぽくて楽しかった。
その次には鳥刺しのパパゲーノが登場する。日本公演を意識してか、緑の顔に作務衣のようなツギハギ和風衣装。陳腐なのだが、道化役らしいひょうきんな雰囲気と表現豊かな歌によって、どんどん違和感がなくなってくる。
オペラらしい豪華な衣装は、他には、夜の女王と道案内役の子供たちぐらいで、あとは現代の正装のアレンジ風。後で気づいたが悪玉はオペラっぽく豪華で華麗な衣装、善玉は現代的で簡素な衣装になっていたようだ。時代考証など無視した演出に違和感が少なかったのは、そもそもストーリーがハチャメチャだからだろうか。モーツァルトのオペラだからこそできる大胆な演出?
パパゲーノ登場あたりで、予習の成果がはっきりわかる。ストーリーがしっかりアタマに入っていることはもちろん、見比べ聞き比べて感覚的に理解した場面や歌が蘇り、始めてのオペラなのに「アア、ここは良いなぁ」とか「なんか物足りないみたい…」と直感的に感じてしまうのだ。
第二部も、どんなストーリーになるのかわかっているので、その場面を天幕+若干の大道具(鏡とテーブルやベッド)でどう表現するのかを楽しめ、人の声が創造するオペラという芸術を堪能できた。今回のメンバーならではの聞き所、各人のすばらしい美声やテクニック、モーツァルト演奏の上手下手について語ることはできないが、そんな知識がなくても、優れた音楽は万人が楽しめるものだと体感できた。睡魔にも襲われず、二時間半が短く感じられた。
たった一回でオペラが好きになった…と言えばウソになる。
今まで、オペラは高い敷居の向こうにあったが、今は「チャンスがあればまた行ってみようかな」と思えるくらいには身近になった。
体験する大切さ、それ以上に、予備知識があったからこそ感じられた豊かなオペラの楽しみ方に感謝したいと思った。実践的講演会をしてくださった椙山先生に改めて感謝。おかげさまで楽しかったです。 |