回 吉田神社の節分祭と生八つ橋

2月3日の節分には京都中のあちこちの神社仏閣で節分祭が行われます。その中でも京都の二大節分祭といえば、吉田神社と壬生寺です。節分当日は、この二つの神社を結ぶ市バスが特別に出るほどで、多くの人は両方をハシゴしてお参りするようです。
 私が毎年お参りに行くのは左京区吉田にある吉田神社で、わが家ではお正月に初詣に行く習慣がなく、この節分のお参りが文字通り初詣となっています。ちなみに徒然草の兼好法師は、父親が吉田神社の神職であったために吉田兼好と言われるそうです。

吉田神社の節分祭では2日夕方6時に、追儺式(ついなしき、鬼やらい神事)が行われ、これまた平安朝初期からの古式に則って赤、青、黄色の鬼が追い払われます。そして、3日節分当日は夜11時から火炉祭(かろさい)が行われます。本社の三ノ鳥居前に、直径5メートル高さ5メートルもの巨大が八角柱型の火炉が設けられ、参拝者が持参した古い神札が納められます。その火炉に浄火を点じ、焼き上げます。その夜空を焦がす光景は圧巻です。私はこの時、古い神札だけでなく、正月飾りや1年間玄関に吊していた祇園祭の粽も納めています。

本殿よりさらに山の上に行くと大元宮があり、ここには全国の神々がお祀りされています。私たちはここで、遠江の国とつれ合いの故郷である駿河の国の神様たちをお参りします。
 その大元宮に行く途中、山道の脇を進むと菓祖神社というのがあります。長いこと気付かなかったのですが、神社のすぐ近くに住む若い友人に「お菓子好きの堀川さんが菓祖神社にお参りしないの?」と言われ、初めてその存在を知りました。そこではこの2日間、豆茶がふるまわれ、蕎麦ぼうろや半生菓子などの接待があります。
 菓祖神社は意外と新しく、昭和32年に京都菓子業界の総意のもと、果物の祖といわれる橘を日本に持ち帰ったとされる田道間守命(たぢとまもりのみこと)と、日本で初めて饅頭をつくったとされる林浄因命(はやしじょういんのみこと)の2神を菓子の祖神として祀ったのだそうです。

さて、お祭なので参道にはびっしりと800もの露店が並び賑わいます。いわゆるテキ屋と呼ばれる露店のみではなく、京都の老舗も出店しています。例えば、五色豆で有名な「豆政」、漬け物の「大安」そして「聖護院八つ橋」などです。私はいつも豆まきの豆を「豆政」で求めます。かみしめて美味しい豆なので、年の数より1つ多く食べるという習わしで、個数が年々増えても苦になりません。
 そして、今年は聖護院八つ橋の生八つ橋のうち、黒胡麻、抹茶と普通のを購入しました。お店の天幕の奥でお茶の接待があり、火鉢に当たりながら休憩しました。久しぶりに頂く餡入り生八つ橋は「こんなに美味しかったのか」というお味でした。自分では買わないが、お土産にすると必ず喜ばれ、たまに頂くと「あ〜おいしい」と思う、浜松の「うなぎパイ」とよく似ています。

今回、聖護院八つ橋総本家を調べてみましたら、創業は1689年(元禄2年)、近世箏曲の祖「八橋検校」にちなんで命名された琴形の焼き菓子が八つ橋です。うるち米のみを使い、薄くのばしたものを短冊に切り、反りをつけて焼いたものです。京土産として有名になったのは明治32年、吉田神社節分祭で出張販売されたり、明治37年日露戦争時、七条駅(今の京都駅)の開業にともない、駅での立ち売りがなされたりしてからのことのようです。
 吉田神社の節分祭にそんな昔から出店していたとはびっくりしました。なるほど、神社を南に下りて少し西に行けば聖護院八つ橋の本店があります。ご近所なのでした。

節分の2日後、息子の友人が珍しいお菓子を手土産に訪ねて来ました。かわいらしい1口サイズの薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)で、モダンな八つ橋のお店「nikiniki」のお菓子でした。ここが聖護院八つ橋のモダン路線のお店ということは知っていましたが、頂くのは初めてです。左からシナモン(つまりニッキ)、レモン、バニラ、黒糖、クルミの5種類です。私がたいそう喜んだせいか、その十日後、別の用事で再訪した彼は、またまた珍しい同店のお菓子をお土産に持って来てくれました。ソチオリンピックをテーマにしたハート形ロシア国旗とマトリョーシカ、バレンタインにちなんだハートの生菓子です。ニッキの入った生八つ橋の皮で作られていて、中に白こし餡、黒こし餡がそれぞれ入っています。あまりの可愛らしさに息をのみ、食べるのがもったいない程でした。nikiniki本店は四条木屋町の北西角にあります。宝石店のような美しいたたずまいの店舗です。また京都駅八条口にもお店があります。

  

ところで、なぜ我が家では節分祭に毎年お参りに行くかと言えば、昔つれ合いが、受験の時に吉田神社に神頼みしてなんとか合格したので、一生お礼参りに行くことに決めたからなのです。

(2014.2.20 記)

 
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