第14回 下鴨神社の御手洗祭とみたらし団子

「風そよぐ ならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける」
百人一首にある藤原家隆のうたです。なら(楢)の小川は上賀茂神社の境内を流れる小川です。
 私はてっきり、下鴨神社の御手洗(みたらし)川と思っていました。というのは毎年7月、土用の丑の日、下鴨神社では「御手洗祭」が行われるからです。これは暑さがピークになる土用のこの頃、境内の御手洗池に入り、清水に足をつけて禊ぎをすることから「足つけ神事」ともいわれています。
 御手洗池の水の湧き口(井戸)の上に祀られた井上社(下鴨神社の末社で、通称御手洗社)の祭神は瀬織津姫命(せおりつひめのみこと)です。この神様は罪や穢れを海に流す災厄祓除の女神なのです。土用の丑の日に、この神池に足をつけ、膝までつかりながら灯明をお供えし、井上社に向かってお参りして、池から上がったところで御神水をいただくと、無病息災の霊験あらたかと言い伝えられています。
 そう、御手洗川は上賀茂神社、下鴨神社の両方にあったのです。そして、楢の林を抜けるので、ならの小川とも言われるそうです。

以前、下鴨神社のすぐ近くに住んでいましたので、御手洗祭の時にもお参りしました。昨年30年ぶりに行って来ました。はき物をぬいで、池につながる御手洗川に入ると、外は35度の猛暑ですが湧き水は20度を下回り、冷たいったらありません。炎天下を汗だくで辿り着きましたが、一瞬で汗はひき、穢れもきれいに流されたような、爽快な気分となりました。これぞ禊ぎと実感できる神事です。今年の御手洗祭は7月25日(金)から29日(火)土用の丑の日当日まで、早朝5時30分より22時の間に行われます。

 

御手洗祭の帰りは、神社の西にある加茂みたらし茶屋で休憩です。「みたらし団子」は御手洗祭において、神前にお供えされる神饌菓子です。鎌倉時代後期、後醍醐天皇が難を逃れて洛北に向かう途中、糺の森(ただすのもり、下鴨神社の境内に広がる原生林)の御手洗池で水をすくったところ、最初に泡が1つ浮き上がり、少し間があってから4つの泡が浮き上がったという逸話があります。それで、ここのみたらし団子は先に1つ、少し間をあけて4つの団子をさしています。タレは醤油と黒砂糖、葛が使われています。炭火であぶってできたお焦げの香ばしさとタレがからみ合って、これがいけるのです。
 また、この独得の形は人間の頭と四肢を表しているとも言われ、禊ぎの神事とも合致しています。

今回、上賀茂神社、下鴨神社について調べていて、その末社である賀茂神社が全国に300も存在することを知りました。また、古代に賀茂氏という豪族がいてその氏神を祀る神社が賀茂神社であることも判明しました。『方丈記』の鴨長明はなんと下鴨神社の禰宜(ねぎ、神職)の息子でした。
 では、浜松が誇る偉大な国学者、賀茂真淵の出自は?と疑問がわき、さらに調べると、案の定、賀茂神社の神官の三男として生まれたことがわかりました。意外なところで、浜松とのつながりを発見して、又みたらし団子を食べたくなりました。

   
参考文献 青木直己『図説 和菓子の今昔』淡交社 2000
  加茂みたらし茶屋(亀屋粟義) しおり
参考サイト  加茂真淵記念館 http://www.mabuchi-kinenkan.j

(2014.7.1記)