堀川佐江子 京都暮らし あれこれ

 

 

 

第19回 雪餅

今年は雪のお正月でした。元日の午後から降り始め、夕方までにみるみるうちに積もって、辺り一面銀世界となりました。それはそれは美しい風景でした。2日朝から浜松に行きましたが、新幹線は30分遅れで無事到着。夜、京都に戻るとまた降りしきる雪です。全身雪まみれで帰宅しました。京都で20センチを超す積雪は1954(昭和29)年以来60年ぶりとのニュースに、わたしの生まれた年ではないの、と意味もなく目出度い気分となりました。
 この季節、ご紹介したいのが「雪餅」です。見た目は真っ白いきんとんですが、外側のそぼろ餡が「つくね芋」なのです。つくね芋(写真下)は握りこぶしを1回り大きくした丸い芋で、粘り、きめの細かさにすぐれ、兵庫県丹波・篠山の特産品です。京都に来て、初めてお目にかかりました。
 そのつくね芋を蒸して、目の細かいふるいで裏ごしし、それに上質の白餡を混ぜ、また裏ごしします。裏ごし器にもいろいろな素材の網、そして網目の大きさがありますが、なかでも馬の尾毛を織り上げて張った「馬毛の裏ごし器」は素材のもつ適度な弾力が極上のなめらかさを与えてくれます。薯蕷(じょうよ)饅頭、つまり紅白饅頭のことですが、この饅頭の白さはつくね芋を混ぜることで、より白くなるのだそうです。雪餅はつくね芋の風味が生きており、丁寧に裏ごしされているため、舌ざわりが非常にいいのです。

雪餅といえば、わたしが知っていたお店は「生風庵」でした。でした、と言わなければいけないのが誠に心苦しいのですが、今回、久しぶりに電話しましたら、ご主人が出られて「もう作ってませんのや、腰が痛うて」との言葉に絶句してしまいました。実はうちの息子一家が、この近くに3年くらい前から住んでいて、2回程行ってみたのですが、予約してないしなあ、と思い、店の前を通り過ぎていたのです。9年も前にのれんを下ろしたそうです。
 それで今回、きんとん、生菓子で定評のある「嘯月(しょうげつ)」に注文しました。生風庵と同じく虎屋から暖簾分けしたお店です。朝、電話しますと「おいくついりますか?先の予約分を作ってみないとわかりませんので、昼前にもう一度お電話ください」と言われました。あらためて電話しますと、「3つご用意できます」ほっとしたものの、「当日のご予約は受けていませんので」とやんわり言われました。そして、「何時に来られますか?」「1時間以内に行きます」ということで、早速受け取りに行きました。つまり、その時間に合わせて作ってくれるのです。
 お店は北大路駅から西に500メートルほどの紫野上柳町にあります。住宅地にある普通の家、つまり「しもたや」でした。ショーケースはなく、注文したお菓子が箱に入り、包装されて台の上に乗っていました。昔の「生風庵」もこんな感じでした。
 まっすぐ家に戻り、すぐにお抹茶を点てて頂きました。黒文字でスッと切ると、中は黄身餡に見えましたが、食してみると黄身の味はせず、白小豆(しろしょうず)を黄色く染めたものとわかりました。外側のそぼろがきめ細かく、ねっとりして、ほのかにつくね芋の香りがする上品なお味でした。
 後日電話にて伺うと、ご主人が出てくださり、「虎屋の雪餅は黄身餡だが、2代目のわたしの父が動物性のものはやめようと白小豆を黄色くしたものにした。外側のそぼろ餡はつくね芋に砂糖を入れただけではばさばさするので、白小豆を加えている。それで、うまみが出てしっとりする」とご親切に教えてくださいました。
 白小豆というのは、生成り色をした希少な白餡の材料です。よく用いられる白インゲン豆(=手亡豆、大福豆)に比べ、風味深く、上品な甘みをもたらす高級和菓子材料です。生産量が極端に少ないため大変高価です。なかでも岡山県産の備中白小豆は白いダイヤと呼ばれているそうです。嘯月はもちろん、この備中白小豆を使っています。
 昔、頂いた生風庵のはもっとつくね芋の香りが強く、わたしは好きでしたが家族にはあまり喜んでもらえませんでした。生菓子では京都一という評価もある「嘯月」の雪餅はさすがの逸品です。そぼろの細かさがとても繊細で、それが口に入れた時、とろけるような食感になるのでしょう。  「嘯月」が虎屋から暖簾分けしたのは1917(大正6)年で、月に嘯(うそぶ)く=吠える、は虎を現しています。また「生風庵」は「龍は雲を起こし、虎は風を生む」、こちらも虎に因んでいます。

ところで、「つくね芋」はとろろ汁の材料にもなります。わたしの実家はなぜか正月2日の夜、とろろ汁(芋汁と呼んでいました)を食べることに決まっていました。自然薯をすり鉢ですり下ろし、卵を入れさらにすり、濃いめの出汁を少しずつ入れてのばし、すり続けるととろろ汁ができ上がります。それを麦飯にかけて、ネギの薬味と共にさらさらと口に入れるのです。今年、初めて浜松駅ビル内に入っている「とろろや」という店で頂きました。
 ヤマノイモの栽培種であるつくね芋が原料の「雪餅」と原生種の自然薯から作る「とろろ汁」。わたしは「とろろ汁」は年に1回食べれば十分ですが、「雪餅」なら毎日でも頂きたいです。

参考文献 『BRUTUS』765号“あんこ好き。” 2013.11.1
参考サイト 京橘総本店
中村軒

(2015.1.21 高25回 堀川佐江子 記)