京都暮らし あれこれ 堀川佐江子

 

 

 

第25回 土用の入りの「あんころ」と丑の日の鰻

今年の祇園祭山鉾巡行、7月17日の先祭(さきまつり)は台風11号の直撃を受け、近畿のあちこちで暴風警報が出ました。ところが、不思議なことに京都南部には警報が出ず、ぱらつく程度の雨で無事決行されました。天気予報の地図で周りが真っ赤に警報が出ている中、結界で守られているのではないか?と思ってしまいました。本稿第4回、「祇園祭」でも書きましたように、山鉾巡行は祇園祭のクライマックスとよく言われますが、祭の主役は八坂神社にある3基の神輿です。巡行はそれらが通る道を浄める露払いのためですので、必ずしなければならないのだそうです。夕方からの神輿渡御(みこしとぎょ)が祭の本番で、神社から四条御旅所まで「神幸祭」は土砂降りのなか行われました。
 そして、1週間後7月24日の後祭(あとまつり)、神輿が八坂神社に戻る「還幸祭」の前の山鉾巡行は見事に晴れ渡った夏空の元で行われました。

7月24日は土用の丑の日でしたが、20日が土用の入りでした。土用とは年に4回あり立春、立夏、立秋、立冬の前約18日間のことです。それぞれ、立春前の「冬の土用」が1月17日頃、立夏前の「春の土用」が4月17日頃、立秋前の「夏の土用」が7月20日頃、立冬前の「秋の土用」が10月20日頃から始まります。これは中国から伝わった陰陽五行説から来ていて、すべての事象を木・火・土・金・水の5つに分類して世界を考えます。五行説では春は「木気」」夏は「火気」秋は「金気」冬は「水気」と割り当てていました。しかし、これでは五行説の重要な構成要素である「土気」がどこにも分類されないことになります。そこで、季節の変わり目である、立春・立夏・立秋・立冬の前18日間を「土気」に分類し、「土用」と呼ぶようになったようです。そして、土用の最終日が節分です。現代では土用といえば、夏の土用しか使いませんね。

 京都では土用の入りに「あんころ」を食べる習慣があります。この猛暑の京都であんころ餅?初めて貼り紙を見たとき、てっきり、夏場、売上の落ちるお菓子屋さんの作り出したものと思っていました。今回、調べてみましたら、随分古くからある習わしということが分かりました。
 その昔、宮中の公家の間ではカガ芋の葉を煮出し、その汁で餅米の粉を練り丸くまるめて味噌汁に入れ、土用入りの日に食すると暑気あたりしないとされていました。江戸時代に餅を小豆餡で包んだあんころ餅に変わったようです。お餅は力餅、小豆は厄除けに通じるため、土用餅を食べると、暑さに負けず無病息災で過ごせるというわけです。庶民にとって、餅は特別のときにしか口にすることができなかったでしょうから、ごちそうだったことでしょう。写真右はとらや製で、小ぶりです。カガ芋とは初耳ですが、長くのびる多年生のつる草で、種子、根、全草とも強精剤として利用されるとのことです。
 和菓子屋さんの仙太郎のしおりによりますと、「土用の入りの日に、餅を搗いて食べると暑気あたりを免れるという。別名はらわた餅ともいう。胃も疲れがちなこの候、からだに『活』を入れる意味があるだけでなく、餅を搗くという馬力のいる仕事に挑戦して、この夏を乗り切るんだという意気があったのかも・・・。それ故に必ず搗いた餅を食べなければ力はつかない。ねっただけの餅では、たとえまずくなくとも力がつかない。」ということです。そして、あんころの語源はあんの上に餅を転ばせたから「あんころばし」と称し、後に「あんころ」に縮まったそうです。写真左が仙太郎製でこしあんと小倉あんです。

しかしです。浜松で生まれ育った私は、土用の入りにあんころ餅を食べる気になれず、土用の丑の日の鰻の方がうれしいです。もっとも土用も丑の日も関係なく、鰻は浜松に行った時にいただいています。京都はもちろん、浜松以外で食べた記憶がありません。

何年か前、ある集まりが島根県松江市であり、宍道湖を望むレストランで昼食となりました。皆さん、蕎麦とかカレーとかを注文していたのですが、相席になった男性がひとり、鰻重を頼み、おいしそうに食べていました。私はなぜか不思議な光景に見えて、なんとなく眺めていたら、その男性が「私、浜松の出身なんです。鰻が大好きなんです。」とニコニコ話されて、びっくりしました。「私も浜松です。私は浜松でしか鰻を食べません。」などと話しているうち、北高の後輩ということがわかりました。彼は高校28回卒のTさん。当時、味の素マレーシアの駐在員で、この集まりの為に一時帰国したとのことでした。鰻重を注文した訳がわかりました。
 と、今の文を書いた翌日、7月25日は浜松で同窓会本部の総会がありました。2年ぶりに出席したところ、受付辺りで「堀川さん」と声をかけられ振り向くと、なんとそのTさんがニコニコして立っているではありませんか。前日、24日は土用の丑の日でしたから「昨日、鰻を召し上がりましたか?」と聞くと「はい、食べました。」当然ですよね。

最近の鰻の高騰は稚魚が捕れなくなった為で、原因はよく分かっていないそうです。完全養殖の研究も進んでいるようですので、近畿大のマグロのように期待したいところです。回数が減っても浜松の鰻はこれからも食べ続けたいと思います。今年は土用の丑の日が2回あります。一の丑が7月24日、二の丑が8月5日です。昨日は食べそびれましたので、次に浜松に行った時に食べて来ようと思います。今回は好きな和菓子の話ではなくて、鰻の話になってしまいました。

 

参考文献 カガイモ 『平凡社大百科事典』3 1984
土用の入り あんころ「仙太郎 田中護的日誌」
参考サイト 土用 「いろは文化事典」

土用餅 「暮らしの歳時記」



(2015.7.25  高25回 堀川佐江子記)