「九」についての失敗
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教室の庭の大きな雌松 |
私の教室は昭和3年築の古い古い日本家屋です。長い廊下の格子は手焼きのガラスがはまっていて、今は懐かしい貴重なものですが、この「古屋の守り」は大変です。生活はしていないので改装した5部屋を使って授業をしていますので広さは充分なのですが庭がなかったら風情を留める事ができません。ですから庭の手入れは年3回程度しなければなりません。
ある日の庭屋の親方との会話です。
「この松の木が邪魔なので切ってね。」と言い、私は外出。帰宅後、
「すっきりしたわね。でも洋間がまる見えで間が抜けた感じ。」と言うと、親方は
「間が抜けたとはこういう事。」と言う。そして私を門柱の所につれて行き、
「ここにアリドウシという木が植わっているね。」
「えっ、アリが通るの?」と聞くと、親方は
「隣に、千両・万両の木があるね。」と。
その会話を聞いていた息子さんが、松の木の上から
「うちのじいさん(明治時代の人)が造ったので庭の体裁が整っている。千両・万両が有りどうしの家であるように。」と、解説してくれる。
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アリドウシ |
はっと気付いた私は松の木を始めて数えてみました。雌松と雄松の大きな木が交互に植えられ9本あったのです。それを私は1本切ってしまった訳で、親方は
「奥さんが居れば枝だけ落としておこうと思っていたが、施主に言われたので仕方なかった。」と言う。
「親方、最初から教えてね。縁起が悪くなってしまったから小さな松を切り株の所に植えて、又9本にしてね。」というわけです。
作庭も法則があり「九」にこだわっていることを知ったのです。
ちなみにこの「アリドウシ」の木は花博(平成16年)の折、昭和天皇の館で植物の押し花の標本の、その一番最初に額に入れられていた木です。こんな庭屋とのやりとりがなかったら、まったく気にも留めなかったでしょう。古くから尊ばれ、今はまぼろしとなりつつある木であったのです。 |