神立ち

神無月(旧暦)に吹く風に乗って全国の八百万(やおよろず)の神々が出雲の国へお立ちになります。

大黒様と白兎

出雲大社では11月5日(旧暦10月10日)に稲佐浜(いなさのはま)において八百万の神々をお迎えする「神迎神事」が厳かに行われます。この月を諸国では古くから神無月といい、出雲では神在(有)月と呼びます。「神在祭」の期間は11日~17日までの七日間で、神事の主宰神の大国主大神の許にて神々が司ります。土地の事柄や縁結びなどについて御相談なさいます。特に縁結びの会議が主なので近年は「恋愛成就のスポット」として若い女性に人気があります。

大社の祭神は「ダイコクさま」で知られる大国主大神です。大神は須佐之男の御子神で因幡の白兎をお救いなされた慈悲深い神様です。その一方、兄弟の八十神(やそがみ)たちからは難を受けたり、数々の試練を受けたりしました。しかしその度に、辛抱強くしのがれ、又死の渕からも蘇られ、御命を清新になされました。国造りを任された時には葦原の中国(あしばらのなかつくに)で農耕を勧められ、医学、温泉、まじないの法などをお教えになり、人々を幸せになさいました。

こうして穀物豊かな葦原瑞穂の国を治めていましたが、天上の国、天照大御神からこの地上の国を皇孫に譲るように求められますと心よくお引き受けになりました。天照大御神はお悦びになり、諸神に命じて広大な宮殿を御造営されお与えなされました。これが出雲大社で最古の御社殿の高さは96m、その後、今日の2倍の48mとなり、平安時代の「口遊(くちずさみ)」によれば、奈良・東大寺の大仏殿や平安京の大極殿よりも大きかったと伝えられています。

出雲大社の境内

平成12年(2000年)にこの古代の御本殿の巨大な「宇豆柱(うづばしら)」が出土しました。その後、「心御柱(しんのみはしら)」も現れ、いずれも杉の巨木3本を鉄の輪で束ね1本の柱とした直径3mもの柱跡です。また長さ50cm以上の大釘も出土しました。これらを拝する時、古代の巨大神殿が彷彿と蘇ります。大空に千木(ちぎ)をそびえさせた壮大なこの神殿は、参拝者が仰ぎ見る信仰の対象となりました。又、国造りや命の蘇りの神様として「ダイコクさま」と御名を称え心の拠り処としています。



拙文の後で誠に恐れ多いのですが、出雲大社に詣でられた皇后陛下の御歌を御披露させて頂きます。

出雲大社に詣でて    
  国譲り 祀られましし 大神の
        奇しき御業を 偲びて止まず   
    (平成15年10月3日)
今回のお料理は卵と松茸を使って八寸のへぎに盛り合わせました。卵は味噌漬けにしてコハク卵にし、松茸は焼いて「いり酒」をかけます。

琥珀玉子と焼き松茸

八寸 琥珀玉子と焼き松茸
材料(6人分)
  鮮度の良い卵黄
・・・
3個
  味噌床
 
 
西京味噌
・・・
100g
信州味噌
・・・
100g
みりん
・・・
大1
酒
・・・
大1と1/2
砂糖
・・・
大1
  松茸
・・・
1本
  煎り酒*
・・・
小2
 
琥珀玉子(調理)
焼き松茸(調理)
 
① 味噌を合わせ味噌床を作る。
② タッパーに①の2/3量を置き、ガーゼをのせて卵でくぼみを作り、その中へ黄身を入れて、更にガーゼをかぶせ、残りの味噌をのせ、三日間漬け込む。
③ 松茸は洗って石突を削り取り、スライスして軽く塩を振ってホイールに包んで焼く。焼けたら裂き、煎り酒を振りかける。
④ ②の琥珀卵を半分に切り③のさき松茸と二種を盛り合わす。
 
煎り酒(材料)
煎り酒の作り方*

梅干し50g(3~4個)に清酒とみりん各1/4Cを加え、弱火にかけて1/2量に煮詰める。
酒だけで作ると関西風、みりんだけで作ると関東風。たくさん作っておくと和え物や刺し身(特に鯛)のかけ汁など色々に使える。場合によっては削り節を加えて作ったり、後で薄口醤油を加えることもある。
 

出雲ぜんざい

出雲では神在餅(じんざいもち)を食べる習わしがあります。「ぜんざい」はこの地が発祥ではないでしょうか。
 

出雲そば

そばの上に薬味がのせられていて、旨だしをかけて食べます。
 
〜小話〜

11月1日は神立ちの日です。

出雲大社の拝殿

実家では神棚を清め、榊、お灯明、三方にのせた朝食を差し上げ、家の神々を出雲へお見送りします。手造りの藁苞(わらづと)にお赤飯をつめて、お弁当にして路銀(旅費)をお持たせします。
父は「朝寝坊してお見送りが遅くなりました。(朝6時なのに)会議に遅れないように飛行機で行って下さい(当時、飛行機便はありませんのに)。」と言って路銀(お金)を多めに包み、神棚にお供えしていました。「出雲大社では、そちらの国に良い婿殿はいないか?良い嫁御はいないか?と縁結びの会合なのだよ。」と言って、父は6人の子どもが幸せな御縁がいただけます様にとねんごろにお祀りをしていました。
幼少の頃父に尋ねました。「打ち出の小槌を振ると欲しい物が何でも出てくるの?大きな袋の中には何が入っているの?」と。
父は「自分の仕事を一生懸命やっていれば袋の中に宝物が一杯になるんだよ。宝物はお金ばかりじゃなくて、目に見えない財産かな。」と、教えてくれました。

さて私ども夫婦は10月10日から2泊3日かけて出雲に旅をしました。私はかねがね出雲行きを望んでおりましたので「神立ち」を書くに当たってチャンス到来です。実は隣り町の岐佐(きさ)神社に祀られている蚶貝比売命(きさがいひめのみこと)と蛤貝比売命(うむがいひめのみこと)が、神在月に出雲大社の瑞垣(みずがき)の中に本殿と並んで天前社(あまさきのやしろ、宿社)を頂いている位の高い氏神様と伺っておりましたので、ぜひ見てみたいと思っていました。古事記によればこの神々は大国主命のお命をお助けになられたと記されているので、特別待遇なのだそうです。この間、八百万の神々は小さなお社(宿社)でお泊りになられるとのことです。
樹齢300年余りの松林の参道を歩き大鳥居をくぐって荘厳なたたずまいの境内に入りました。国宝の本殿は60年に一度の屋根の大修理「平成の大遷宮」中ではありましたが、神楽殿にて祝詞(のりと)を頂き玉串を捧げ「二礼四拍手一礼」の正式参拝を致しました。広大な大社の森の霊気を感じながらあちこち見学致しました。

出雲大社の十九社
瑞垣の中は見ることができませんでしたが、境内概略図によって岐佐神社の神々の宿社、天前社を知ることができました。諸神は境内の小さなお旅社・東西の十九社(じゅうくしゃ)に宿泊され、連日お祭りがなされるのだそうです。この神在祭の期間、土地の人々は静粛に過ごすといいます。そして10月17日にお旅社の戸が三度叩かれたのを合図に神々は国元へお帰りになります(神去祭)。

大修理を終え、拝殿に移されている祭神の「ダイコクさま」が本殿にお戻りになられるのは平成25年(2013年)5月10日(正遷宮)とのことです。

 

えびす講

神々が旅立った後の神無月20日に留守番の神様「えびす様」にねぎらいの御馳走をする「えびす講」があります。
七福神の中でも特ににこやかなえびす顔の福神です。商人のマチでは商売繁盛を、漁師のマチでは豊漁を、山里では豊作をお守りして下さる神様として崇(あが)められています。小鯛を二匹腹合わせにして稲穂で吊して(掛け魚)供えたり、生きたままの魚(フナ・コイ・メダカ)を鉢に入れて供えたり、えびす大根と呼ばれる二股大根を供えたりします。大根は日本人にとって冬の大切な食べ物であると共に保存野菜として貴重な作物の一つです。又、その純白さゆえに昔から供物やお祝いに使われてきました。中でも二股大根はその形から作物の豊穣を願ったのでしょう。

ご馳走は平(ひら)と呼ばれる根野菜や木の子・昆布などの煮しめと、はんぺん、大根なます、煮魚、果物など。御飯は赤飯やそば、桜御飯、茶飯、亥の子餅など数々のお料理でおもてなしをします。

講といっても各家庭ですることですから、その家の生業や地域によって違いがありますが、いずれも益々の繁栄を願ったこの信仰は今もなお生き続けています。

今回のお料理はえびす様がかついでおられる鯛を使ってみました。

鯛の角造り   紅白なます、岩茸、黄菊、山葵、割り醤油

えびす講 鯛の角造り
材料(6人分)
  真鯛(正味)
・・・
250g
  大根
・・・
150g
  人参
・・・
20g
  三杯酢
 
 
酢
・・・
大1
砂糖
・・・
小2
塩
・・・
少々
  岩茸
・・・
4枚
  黄菊
・・・
3輪
  山葵    
  割り醤油    
 
醤油
・・・
大2
だし
・・・
大1
 
① 鯛は三枚におろし作取りして、まな板に皮を上にして置き、布巾をかぶせ、熱湯をさっとかけて氷水に取る。水けをふき、ぬれ布巾に包んで冷蔵庫で冷やす。盛る時、1.5cm角に切る。
② 大根、人参は千切りにして別々に塩もみ、洗って絞り、三杯酢で和えて、なますにする。
③ 岩茸は戻して石突を取り、茹でる。
④ 菊は花びらにして茹でる。
⑤ 器に彩りよく盛り込み、山葵を添え、割り醤油で勧める。
 
〜小話〜

オイベスサマの日には台所に祀られている「えびす大黒」のお社を床の間に飾ります。赤い小鯛を二匹腹合わせにしてお社の上に掛け、脇に黄色の菊の花を飾り、ご馳走を供えます。醤油と酒で炊いた桜御飯とお平(里芋、牛蒡、人参、椎茸、こんにゃくの煮しめと桜色の鯛形のはんぺん)が盛られます。紅白なますやお吸物など、オイベスサマと同じお料理で共食します。

オイベスサマの日になりますと母の面白い話を思い出します。
「神様がお帰りになってオイベスサマに『留守の間、何を食べていたか』と尋ねると『いつもと変わらぬ』と、答えるの。でもね、歯の間に小豆が挟まっていて見つかってしまったの。」と。
私の実家では小豆が入っていないのに、なぜ母がこのようなことを言うのかと、以前「えびす」に関する本を読み漁りました。そして、「歯の間に小豆が挟まっていて見つかった」という一節に出合い、古くからの言い伝えであることを知りました。母は続けて「食いしん坊の神様ですから、お台所に祀って毎朝、真っ先に御飯を上げるのですよ。」と、言うのでした。
 

今、私は母の教えを守ってお祀りしています。