 |
 |
日本赤十字の恩人、石黒忠悳翁は隠れた茶人であるが、或る時翁夫妻が茶の宗匠に招かれて客となった。その時のご馳走に蜆の味噌汁が出たがよく見ると一椀の中にある10か15の蜆の大きさが、みな同じであった。この時の話を翁はよくかう言って語った。「これは宗匠の奥様が、十銭ばかり買った蜆の中から同じ大きさのものを選(よ)り分け、蜆を一つ一つきれいに磨いて汁の中に入れたものである。例え償(あたひ)は貧しくともその親切心と蜆貝の美しさは高貴なもので、私共夫婦共感じ入った。この親切心があってこそ眞の御馳走である」と。 |
|
|
蜆について |
蜆は御存知の通り、暗褐色又は漆黒色の2枚貝で、マシジミ、ヤマトシジミ、セタシジミなどの種類がありますが、最も多く消費されているのはヤマトシジミです。
ヤマトシジミは全国の河口、潟など河川水と海水の混じる砂泥底にすみます。昔は私の生まれた地域でも取れていましたが、今は埋め立て地になってしまいました。現在、近くでは都田川が浜名湖に流れ込むあたりで取れています。蜆の採取量日本一を誇っているのは※宍道湖です。
蜆の成分はカルシウム、鉄、ビタミンB2等が含まれていますが、身が少ないので「だしの素材」として特に味噌汁に使われます。
※宍道湖には幻のうなぎ「あおうなぎ」が生息しています。 |
|
|
蜆汁 |
 |
 |
材料(6人分)
|
|
シジミ(ヤマトシジミ) 60粒 |
|
水 5C |
 |
赤出し(八丁味噌) 大2 |
信州味噌 大1と1/2 |
|
粉山椒 少々 |
|
|
|
① シジミは薄い塩水で砂を吐かせるが、市販のものは砂を吐かせてあるのでそのまま使う。
② シジミはよく洗い笊にあげる。
③ ①を水から入れてアクを取りながら口が開いたら一煮立ちさせ、味噌を溶き入れる。
(旨味が足りないならば味の素一ふりも可)
④ 椀に煮え花の汁を張り、粉山椒をふり、吸口にする。 |
|
|
~私の感じること~ |
常々、私は御馳走について次の様な考えを持っています。この忙しい世の中で今一番大切なものは時間です。この時間を相手に与えることはなかなかむずかしいことです。御馳走とは読んで字のごとく自ら馳せて走って食材を調達し、この大切な時間を使って真心込めて相手に合わせたお料理を提供し喜ばせることを言うのではないでしょうか。
又おもてなしは「お持て成し」と書き、相手への感謝の気持ちをお料理を通じて無言で伝える心構えを言うのでは、と思います。ですからお料理屋さんやレストランでの接待は私流に言えばお持て成しではありません。
更に御馳走はデパ地下や店屋物でよいはずがありません。自分のできる範囲(経済面、技術面)で真心込めて作り上げたものこそ真の御馳走であり、真のお持て成しであると信じています。
現在、若い世代ではこのような理屈を受け入れる余裕はないと思いますが、忠悳翁の言葉を頭の片隅に置いて気持ちだけでも豊かにお台所に立ってい頂きたいと思います。
毎年、3月のメニューの中に「つくし」を出します。以前来客の折、茶事で懐石の小吸物椀の中に「つくしの穂先」を浮べました。お客様は「あれ、つくし」とびっくりされました。多分幼い頃遊んだ土手のつくしやすぎなが生えていた風景を思い出して下さったのでしょうか。
一昨日、夫とつれ立って梅の香漂う里山につくしを摘みに出掛けました。100本程摘めましたので煮てみました。煮方と写真を掲載します。
また軽井沢の友人から花豆が届いていますので含め煮にしました。どちらも時間をかけたいわゆるスローフードですがテレビを見ながら出来るお料理です。
|
|
つくしの佃煮 |
 |
 |
|
つくし (摘んだだけ) |
重曹 少々 |
|
だし |
|
|
|
酒 |
適量 |
|
醤油 |
|
|
みりん 少々 |
|
|
|
① つくしは摘んできたら直ちに袴を取り、洗ってボールに入れ重曹をふりかけて熱湯を注ぐ。
② 一晩そのまま置いて、水を取り替えて晒す。
③ 鍋にだしと調味料を入れて煮る。 |
|
備考:「つくし」は犬が散歩するような所はさけて下さい。
苦みがやや残る程度までアク抜きをして下さい。 |
花豆の含め煮 |
 |
|
① 鍋に花豆を入れ、たっぷりの水を注いで一晩置く。
② ①の水を捨て、新たにたっぷりの水を注いで火にかけ沸騰して10~15分茹でたら、笊にあげて水けを切る。
③ 豆と鍋を洗って再び水を注ぎ同じように茹でこぼしてアク抜きをする。
④ 再び水を注いで今度は充分柔らかくなる迄、弱火で煮る。
⑤ 豆が柔らかくなったら調味料を入れ10~15分煮て、煮汁につけたまま冷まして味を含ませる。 |
|
備考:④は30分毎にタイマーを入れて、1時間半ぐらい弱火で煮ると柔らかくなります。
⑤は豆が煮上がった時、煮汁が豆とひたひたが良いです。 |